元刑事として数多くの現場に立ち会ってきたなかで、「一番つらかった現場は何か」と聞かれることがあります。
答えは、列車飛び込みによる自殺の現場です。
しかし、つらさの理由は衝撃的な現場そのものではありません。最もつらいのは、突然大切な人を失った遺族への対応です。
訃報を伝えるとき、何度経験しても胸が締めつけられます。
この記事では、現場で実際に行われる対応や、なぜ遺族対応が最もつらいのか、元刑事として忘れられないエピソードを交えながらお伝えします。
なぜ「列車飛び込み自殺」の現場が1番つらいのか

私は刑事として多くの現場を経験してきましたが、その中でも1番つらかったのが「列車飛び込み自殺」の現場です。
つらいのは以下の2つです。
- 損傷の激しいご遺体
- 遺族の対応
この2つが最もつらいのですが、避けては通れません。
何度か列車飛び込みの現場に行き、ご遺体を見てきましたが、どれも鮮明に覚えています。
私が勤務していた県は車社会なので、列車飛び込みの頻度は多くありません。初めての現場のときは、線路上に肉片やら手足が飛び散っているのを見てショックを受けました。
また、ご遺族に連絡して警察署に来てもらい、事情聴取を行います。
なぜ自殺したのか、家庭や学校で問題はなかったのかを調査しなければならないのですが、泣きじゃくっているお母さんを前に、かける言葉も見つかりません。
これはどの遺族対応でも同じだと思いますが、1点だけ違う点があります。それは、損傷の激しいご遺体はご遺族に見せてあげられないということです。
列車飛び込み自殺の現場で警察官が行うこと

列車飛び込み自殺の現場では、警察官が短い時間で多くの業務をこなす必要があります。
ここからは、実際の現場でどのような対応をしているのかを説明します。
- まずは線路内の確認
- 遺体の確認と収容
- 事故の状況証拠を集める
- 運転手への聴取
それぞれ説明していきます。
まずは線路内の確認
列車飛び込み事故が発生すると、鉄道会社から119番や110番通報が入り、現場に向かいます。
線路内への立ち入りは、鉄道会社の責任者が安全を確認して許可が出てからになります。
特に夜間になると視界が悪く、危険が場所もあるため、慎重な対応が必要です。鉄道関係者や救急隊と連携し、列車の損傷や線路内のチェックを行います。
遺体の確認と収容
人間が列車に轢かれると、文字通りバラバラになります。列車の速度にもよりますが、基本的に四肢は欠損します。
体幹部分の損傷から内臓が飛び出していたり、頭蓋骨が粉砕して脳が散らばっている現状です。
その部位を一つひとつ回収し、収体袋に収容していきます。
刑事をしていると、普段から検視や解剖などでご遺体に触れる機会が多いですが、さすがにバラバラのご遺体を見ると、なんとも言えない心境になります。
事故の状況証拠を集める
最近では、多くの列車にドライブレコーダーが設置されているので、動画をチェックして事故か事件かを判断します。
列車の停車位置や運行状況の確認、遺留品の回収も併せて行われます。
遺留品にの中には、本人確認できるものやその日の行動がわかる手がかりが含まれているので、念入りにチェックしなければなりません。
運転手への聴取
運転手は事故の当事者でもあり、目撃者でもあるので必ず事情聴取を行います。
しかし、運転手さんは事故に強いショックを受けているので、配慮が必要です。
運転手さんの目撃情報とドライブレコーダーに記録された内容を照らし合わせながら、調査します。
なぜ遺族対応が最もつらいのか

現場対応自体も厳しいものですが、刑事にとって最も心が重くなるのが「遺族対応」です。
ここからは、なぜ遺族対応が警察官にとって最大の負担となるのか、その理由を具体的に説明します。
訃報連絡
列車飛び込みの自殺をする人は、若い人が多い印象です。私が対応した自殺者も10代から30代の人でした。
必然的に訃報の連絡先はご両親になります。訃報連絡を行う警察官もやりきれない気持ちです。
連絡を受けたご遺族からすれば、突然警察から電話がかかってきて「ご家族と思われる人が亡くなりました」と言われても、当然信じられません。
「うちの子じゃないです。人違いです」と言われながらも、なんとか説得して警察署に来てもらいます。
遺族の悲嘆
家族が自殺したと聞いたときのご遺族の反応は、2パターンあります。
1つ目は号泣して崩れ落ちるご遺族です。これは想像しやすいと思いますが、いざ目の当たりにすると、なんの言葉も出てきません。
2つ目は亡くなったことを信じていないご遺族です。
列車に轢かれたご遺体は損傷が激しいので、身元確認ができません。そのため、親子間のDNA鑑定を行い、身元を確定させます。
警察から「DNA鑑定の結果、親子だと確認されました」と告げられても、ご遺族の心情では「どこかでまだ生きているはず」と思っているのです。
遺体の状況説明
通常の検視では、ご遺族にご遺体の顔を確認してもらって身元確認をします。しかし事故にあったご遺体は損傷が激しく、とてもご遺族に見せられる状態ではありません。
全ての部位が発見できなかったこともあります。
これまで列車にひかれたご遺体を何度か取り扱いましたが、ご遺体の顔を直接確認されたご遺族は1人だけです。
私は「損傷が激しいご遺体を見てしまうと死顔しか思い出せなくなるから、見せないほうがいい」と上司から教えられました。
今までの楽しかった思い出や笑顔が上書きされて思い出せなくなってしまうのは、ご遺族もつらいので、その旨を説明して、直接の面会は避けます。
しかし、直接顔を見れていないからこそ、本当に死んでしまったと実感が湧きにくいのも事実です。
中には、ご遺体は見ない方がいいと説明しても、どうしても見たいという方もいました。
頼まれても見せないという方針でしたが、納得してもらえなかったら、比較的損傷の少ない胴体の一部だけを見せようということになりました。
先輩刑事と一緒に、血まみれのご遺体を噴き上げて毛布をかけます。見せずに済むよう、祈りました。
結局は納体袋越しの対面となりましたが、ご両親は納体袋にしがみついて号泣していました。あのときの光景は忘れられません。
なんの力になることもできず、ただその場で静かに見守ることしかできませんでした。
もし悩んでいるなら

警察官として、そして刑事として多くの現場を経験してきましたが「悩んでいる人は、本当にギリギリまで誰にも言えない」ということです。
もし今あなたが心のどこかに重さを抱えているなら、それは弱さではなく、むしろ「限界に近いサイン」かもしれません。
一人で抱え込まず、まずは小さな一歩を踏み出してほしいと思っています。
気持ちを言葉にするだけでも、負担は少し軽くなります。対面が難しければ匿名の相談先もあります。
「こんなことで相談していいのかな…」と思う必要はありません。話すこと自体が、次の一歩になります。



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